専門医に聞く

下肢静脈瘤という病気について重松先生

重松 宏 先生
氏名 重松先生 重松 宏 先生
勤務先 国際医療福祉大学臨床医学研究センター、
山王メディカルセンター、
医療法人社団ジーメディコ都庁前血管外科・循環器内科
役職 教授、血管外科統括部長
略歴
1972年
東京大学医学部医学科卒業
1976年
東京大学医学部付属病院第一外科入局
1981年
医学博士号取得(東京大学)
1984年
米国留学(州立 Florida 大学外科)
1993年
東京大学第一外科学講座講師
1998年
東京大学大学院医学系研究科血管外科学分野助教授
2003年
東京大学医学部付属病院手術部長
2005年
東京医科大学外科学第二講座主任教授
2011年
国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授
山王メディカルセンター血管病センター長
2014年
国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授
山王メディカルセンター血管外科統括部長(東京・栃木地区)
第一回目は医療法人社団ジーメディコ都庁前血管外科・循環器内科 重松 宏 先生にお話をお聞きしたいと思います。
専門的な目線から、下肢静脈瘤とはどういった病気なのかを詳しく教えて頂きたいと思います。
それでは、重松先生よろしくお願い致します。

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)とはどういった病気ですか?
どのような症状、原因があるのでしょうか?

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)には、1次性のものと、深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)※1血管形成(けっかんけいせい)異状などに伴う2次性のものとがありますが、ここでは最もよく見られる1次性の下肢静脈瘤についてお話したいと思います。

血液は動脈を通って末梢組織まで流れ、静脈を介して心臓に戻ります。静脈には、骨の(そば)を流れる深部静脈と皮膚のすぐ下を流れる表在静脈(ひょうざいじょうみゃく)があります。足の表在静脈には、大伏在静脈(だいふくざいじょうみゃく)小伏在静脈(しょうふくざいじょうみゃく)があり、それぞれ鼠径部(そけいぶ)(脚の付け根)や膝窩部(しつかぶ)(膝の裏)で、深部静脈に合流して血液は心臓に戻ります。

合流するところや静脈内には血液が逆流しないように弁がついていますが、何らかの原因で、弁が壊れると深部静脈から表在静脈に血液が逆流し、表在静脈が拡張し、ボコボコと膨らんで静脈瘤になります。

(※1)
体の深部にある静脈に血栓ができる症状です。
下肢静脈瘤とは
(1)弁が閉じずに血液が逆流→(2)逆流した血液が停滞し、静脈が拡張
静脈血の流れ
正常静脈瘤
下肢静脈瘤とは

人間は立って生活していますので、逆流した血液は重力により末梢に行くほど静脈圧は高くなり、分枝も拡張してきます。妊娠・出産や長時間の立ち仕事、激しいスポーツ、などが、原因となります。

症状としては、足のむくみや重さ、だるさ、脚のつり、かゆみ、色素沈着、うっ帯性皮膚炎(たいせいひふえん)(次写真)などが見られます。

重症化するとどのような状態になるのでしょうか?

静脈圧が高い期間が長くなると、血液のうっ帯により皮膚炎を生じ、掻痒感(そうようかん)(かゆくなったり)や色素沈着、さらには潰瘍(かいよう)を形成してきます。時に潰瘍面から出血し、大事に至ります。

  • 浮腫(ふしゅ)夕方。膝上に至るのは稀
  • かゆみ
  • 長時間立位静止での疼痛(とうつう)
  • 血栓性静脈炎肺塞栓症※2を生じることは稀
  • こむらがえり(特に夜間)
  • うっ滞性皮膚炎色素沈着、湿疹
  • うっ滞性潰瘍不全穿通枝※3を伴うことが多い
  • 血栓性静脈炎
  • うっ滞性皮膚炎
  • うっ滞性潰瘍
(※2)
肺塞栓症(はいそくせんしょう)…血栓(血のかたまり)が突然肺の細い動脈につまり呼吸困難や胸痛を引きおこす病気です。
(※3)
不全穿通枝(ふぜんせんつうし)…表在静脈と深部静脈を結ぶ静脈(=穿通枝)が血液を流す等の機能不全を起こした状態のこと。

下肢静脈瘤にならないためにはどのような予防法があるのでしょうか?

下肢に静脈うっ帯をおこさせないようにすることが大事で、長時間の立ち仕事を回避して、時々は下肢を挙上(きょじょう)(上げる)してうっ帯をとり、サポートストッキングや弾性ストッキングのようなもので下肢を圧迫します。また、航空機内では、つま先立ちをするなどして、足趾(そくし)(足の指)や腓腹筋(ひふくきん)(ふくらはぎ)をよく動かす運動をするのが良いでしょう。

下肢静脈瘤になってしまった場合はどうすればよいですか?

長時間の立ち仕事や乗り物(自家用車や飛行機など)に長時間乗る時には、弾性ストッキングを履くようにします。下肢への外傷に気を付け、水虫などの感染も避ける必要があります。足部を清潔に保つフットケアが必要です。

※あくまでも進行防止・現状維持が目的 の療法で、下肢静脈瘤そのものが治る わけではありませんが、初期治療には効果的です。

重松先生ありがとうございます。
下肢静脈瘤という病気について教えていただきました。
次回は「下肢静脈瘤の治療方法について」重松先生にお聞きしたいと思います。